俺TOお前

プン子さんは今日も日常と戦います。

「蹴りたい背中」レビュー

2004年に芥川賞にて受賞された綿矢りさ著の「蹴りたい背中

という作品を読んだので感想を書こうと思います。

 

・繊細な表現力

・思春期の生きづらさ

・「蹴りたい背中」の意味

 

■繊細な表現力

まず、冒頭の「さびしさは鳴る」という表現。震えるわ。

理科室でワイワイと顕微鏡を眺める生徒たちに反して、

一人でプリントを細くちぎりながら時間が過ぎるのを待つ主人公。

声を上げているのは他の生徒なのに、主人公のことを

「さびしさが鳴る」と表現・・・いや、すごい。

他にも、主人公が耳を机にあたるようにうつぶせたとき、

「――の細胞の絵を描く鉛筆の芯が紙を通して机に当たる

コツコツという音が、机から伝わって直接鼓膜に響いてきた。」

理科室の机って、4,5人で一つの机になってますよね。

他のみんなは一緒に細胞のスケッチをしているのに対して、

主人公だけは同じ机にいながらも一人別世界にいることを表現。

その情景が細部まで頭の中に浮かんできますね。

 

いわゆる、ぼっちという状態をここまで聴覚のみを使って

繊細に表現できる人はいるだろうか・・・

本当に素晴らしい表現力だと思いました。

 

■思春期の生きづらさ

主人公のハツと、元友人の絹代の関係性によく表れています。

中学時代のハツと絹代はいつも2人で仲良しでした。

しかし、高校に入ると絹代は他の友達ができ、

その人たちとグループで過ごすようになりました。

絹代はハツもグループに何度も誘いますが、ハツは断ります。

なぜなら、ハツは、絹代が私ではなくあのグループを選んだことに

ショックを受けているからです。

このあたりが、すごく思春期の生きづらさを表現しているなあ、

と思いました。

おそらく、ハツは絹代のことが大好きで、

自分の内面のことなども大変理解してくれている人物

だと思っています。

絹代もハツのことを大切に思っていますが、

ハツの方がそれを大きく上回っており、

二人の間にギャップが発生してしまっています。

これが原因で、2人は一緒にいることができません。

 

ハツはいわゆるヤマアラシのジレンマに陥っており、

絹代や他の人とうまく距離をとることが出来なくなっているんですね。

 

うーん、本当にリアルな思春期だなあ。

自分もこういう時代があったんで、心がざわざわします。笑

 

■「蹴りたい背中」の意味

色んな解釈があると思いますが、自分なりに解釈します。

何度かハツはオリチャン(モデル)ファンの男子にな川の

背中を蹴ります。

いずれも、にな川にぎりぎりバレないように、

こっそり、けどがっつり(笑)蹴ります。

覚えてる場面が2つしか出てこなかったのですが、

1回目は、にな川がオリチャンのラジオを夢中に聴いているとき、

2回目は、オリチャンのライブ後の出待ちで、

にな川が暴力的に人を押し分けて先頭にたどり着いたのに

その行動からオリチャンに無視されたことで

一人で絶望していたとき、

です。

 

2回目なんか、何でそこで蹴るの?と思いますが、

ハツいわく、にな川には傷みつけられどん底に落ちてもらいたい

そうです。

ですが、ハツはにな川の家に行ったり、

一緒にライブに行ったりしているので、

嫌いが理由で暴力を振るっているわけではないと思います。

 

ここで、ハツの性格について考えます。

ハツは、真面目でプライドの高い人物だと思います。

グループでつるんでワイワイしているのを幼稚だとか、

すぐに蔑みます。笑

ですが、本当にそう思っているのでしょうか?

私は、ハツは無意識レベルで自分の気持ちに嘘を

ついているのだと思います。

本当は、一人じゃなくて友達が欲しい、

グループに入りたいと思っていると思います。

ですが、プライドが高いため、ありふれた人になりたくないために、

言い訳をして一人でいるのではないでしょうか。

 

にな川にはどん底に落ちてほしいというのも、逆で、

にな川に好かれたいと思っているのではないでしょうか。

ですが、そんな感情は汚らしいとプライドの高さで許しません。

 

そして、「蹴りたい背中」も、本当は「抱きしめたい背中」なのでは

ないでしょうか。

蹴るの逆が抱きしめるなのかは、ちょっと微妙ですが、

2回の背中を蹴るシーンを抱きしめるに変えると、

かなりしっくりくると思います。

1回目は、オリチャンに夢中なにな川に、自分の存在を気づかせたい、という気持ちです。

2回目は、辛い気持ちを一緒に共有して慰めてあげたい、

という気持ちです。

私を見ろよ、何なんだよって気持ちで背中を蹴ることで、自分の本心を押し潰します。

ここで、抱きしめでもしたら、一気に甘々な恋愛小説に展開するんですけどね。

けど、ここでそんなことは許されませんね。

恋愛なんか汚い、ってハツは思ってるんでしょう。

ううううううううううん、本気の本気の青春小説だ、これは。

 

はい、以上です。

蹴りたい背中」、ご馳走様でした。